日々の暮らしと建築と

知り合い0で十和田に移住した株式会社WAAの日々

設計中に考えたこと:十和田のアパート編

十和田市内に建設予定のアパートについての記事です。

アパートと言っても40坪程度の個人住宅規模の建物を、2つの住戸で構成するとてもとても小さなアパートです。

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ここでは「屋根の形状=天井の形状」となることで、人の活動とどのように関わっていくことができるか?ということについて考えたので、その過程をご紹介できればと思います。

 

概要と要望

一番最初に頂いた要望は、3~4住戸を車庫付きで計画したいとの要望でした。 設計依頼当初は既存の木造住宅が敷地いっぱいに建っていて、工事費用などでメリットがある場合は、リノベーションする方針も考えて欲しいとの事でした。

 

ただ、車庫を住戸数に合わせて取ろうとすると、既存の建物を最低でも1/3ほど壊す必要がある点と、既存建築の検査済証が無かった点から、既存を生かす場合の方が設計も工事費用もハードルが高いと判断し、新たに建てることになりました。

 

予算は収益物件であることから、かなり抑えめであったため、構造形式としては木造を選択せざるを得ないような状況でした。

そのため、車庫も青空駐車とすることで極力費用を抑えるよう検討を開始しました。

 

敷地の状況

敷地は、間口約8mの奥行き約17m程度の長方形です。 

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西面が接道しており、南側の敷地は現在空いていますが、土地の持ち主によると将来個人住宅などを建設予定となっています。

 

駐車スペースの面積を最小限にして、なるべく住居スペースを確保しようとすると、車庫は道路に面して串刺し駐車にするのが最も効率よくできそうでした。間口から判断しても、最大で3台停めるのがやっと、との判断から4住戸は諦め、3住戸のアパートを検討することになります。

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予算から逆算して、今回は40坪ほどの床面積を確保するのがギリギリということが分かり、13坪(約43㎡)/1住戸の割合で配置する必要があります。

 

2階建てか3階建てか?

3階建ての場合、1~3まで同じプランを積み重ねれば良いので、設計は楽ですが、共用階段を設ける必要があり、限られた床面積の多くを失ってしまうことになります。特に1階に住む方にとっては、直接地面からアクセスできるにも関わらず上階に住む方のために住居面積が狭くなってしまうので、今回の坪数から考えて得策ではないと判断しました。

雪国の共用階段ともなると、吹きさらしの外部階段は上り下りに危険が伴います。また鉄骨階段など、構造種別を増やすのも費用的な面で断念せざるを得ませんでした。

 

2階建ての場合も、それぞれの住戸がメゾネットとして内部階段を持つことになるため、住戸面積が圧迫されてしまうという問題点もありました。

 

設計趣旨

このような条件のもと、40坪の2階建てのヴォリュームに3住戸で住まう場合の検討が始まりました。

最初に考えたことは、各住戸が持つ階段というデメリットをメリットにして、縦方向に広がりのある住空間を作ることです。

階段を室にすることで閉じるのでなく、リビングなどの居室に出すことで吹き抜けを作り、1階から2階までが大きなワンルームになるような住宅です。

高さ方向も合わせて広く使えることで、狭さを補おうと考えていました。

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また、平面的に1つのヴォリュームに3住戸を入れようとすると、北向き、南向きなど、住戸によって日当たりに大きな差が出てしまうという問題もあります。

その点も、2階の空間を階段をかいしてズラしながら配置することで、1階は北向きだけど、2階は南向き、というようにそれぞれの住戸の差をなるべくなくすように検討しました。

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スタディ

このような住居配置が見えてくると、外観も含めた建物全体のヴォリューム検討になります。

3つの住戸がそれぞれ外観にも表れてきて、それぞれが屋根を持つことで、一つの建物だけど3つの住戸が集まって暮らしている様子が外からも感じられるように考えました。

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人が集まって住むアパートやマンションは、同じプランの繰り返しにすることで効率よく収益を上げることができると思いますが、その表情はとても均質で、無味閑散としたイメージを与えてしまいます。

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街に対してその様な冷たいイメージを与えるよりも、暮らし方が外観となって現れて、街に対してもその建物らしい表情を作れればと考えました。

 

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設計条件の変更

さて、今回のプロジェクトは、ここまで来て大きな方向転換を迎えます。

40㎡という居住空間を断面的に広く使えるようにすることで、少しでも狭さを解消しようとの試みでしたが、やはり1住戸当たりの居住面積をもう少し増やし、車も1住戸当たり2台停めれる方が特色のあるプランとして売り出せるのではないかとの事業判断が下りました。

結果として、住戸数を1つ減らし、2住戸+駐車スペース2台分という条件に落ち着きます。

基本設計の終了間際での、初期条件の大きな変更となってしまいましたが、、、お施主さんの考えていることに私たちも納得することができ、また、本当に良い建物を作りたいというお施主さんの想いも伝わってきたので、再度1から検討をやり直しました。

 

設計趣旨2

車庫に関してはそれぞれ2台の合計4台となり、間口的に4台を並べるのは困難でした。そこで、縦列駐車となってしまいますが、1階はシンプルに南北に分割して2台ずつ2列に配置することにしました。

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中でも奥の1台は、2階に建物があるピロティ形式とすることで、冬季は車の雪下ろしなどの負担を軽減することもできます。

2階は、それぞれがL字の組合せのようなプランとすることで、お互いのリビングが南に面することができるように計画しました。

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スタディ

検討当初は、3住戸の時のようにそれぞれの住戸の配置から屋根のヴォリュームを分節するような案や、各部屋単位で屋根の形状を分節するような方針にて検討を進めていました。

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しかし、屋根を分節することが、2つの住戸の内部での活動とあまりリンクせず、ただの形遊びのようになってしまっていることに気づきました。。。3住戸だった際のコンセプトを捨て、改めてスタディの方針を変えてみることにしました。

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青森に来て、多くの建物を見て感じていたことの一つに、建物の屋根形状に関することがあります。建物の雪下ろしの手間を減らす観点から、こう配屋根を採用する建物が多く、普通の木造住宅で陸屋根を採用するケースは極めて稀であるように感じていました。

この地域の特徴でもあるこう配屋根を活用し、内部の活動ともマッチする組合せを見つけられれば、他には無いこの建物らしい表情を作れるのではないかと考えたのです。

 

そこからは1枚の屋根を折ることで屋根を構成し、その屋根形状とプランの整合性をチェックしながら検討を進めました。

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プランの方針は概ね決まっていたのですが、その住居を利用する方が、その室名通りに部屋を利用する必要はありません。

人によっては、リビングで寝たり、寝室で仕事をしたり、お風呂でTVを見ながら寛いだり、生活の仕方は様々です。

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「気持ちが良いからここでご飯を食べたいな」、「落ち着くからここで寝たいな」、など空間のあり方によってその人がそこでの活動を選択できるような、そんな場所の多様性を作れれればと考えました。

 

屋根形状と内部空間の関係性

通常の勾配屋根の建物では、勾配部分は小屋裏として隠されてしまい、フラットな天井になっているケースが多いと思います。

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ここでは、屋根の勾配をそのまま室内の天井とすることで、空間に変化を付けています。

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建物の天井が低いと落ち着いた感じ、高いと伸び伸びして気持ち良い、外に向かって高くなると高揚感があるなど、天井のあり方によって、何を感じ、どのように過ごしたくなるか?

そんなことを考えながら形状を決めました。

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最終的には、nLDKという表記のもとに間取り図が作られて、賃貸の募集がかけられます。しかし、実際に入居される方が室名を越えて自分らしい暮らし方をしてくれる、そんな建物になって欲しいと思います。