日々の暮らしと建築と

知り合い0で十和田に移住した株式会社WAAの日々

設計中に考えたこと:蓬田村の事務所編

設計期間中に、私たちが何を考えているのか?

私たちの設計事務所では、あらかじめ決まった空間の配置や構成、素材や設備機器などのフォーマットなどは無く、クライアントの要望や敷地の状況、プログラムの内容に合わせて、毎回1から検討を始めます。ただ要望を形にするだけではなく、その要望をどうすればその敷地の中で、もしくは敷地の枠を超えて最大化できるか、私たちなりのアイデアをプラスして提案します。

 

最終的に建物が完成するまで、様々な検討を繰り返し、クライアントの要望と設計のコンセプトが一致するまで、建物の形は何度も変化します。

その検討の過程の中から、クライアントは数ある要望の中でも何に重きを置いているのか見極め、少しでも設計内容に反映できるよう努めています。

 

渡部環境設計事務所はどんなことを考えて設計しているの?という問いに対して、一言でお伝えすることは中々できません。それは考えていることの幅が広すぎるからです。

同じプログラムでも敷地が変われば、設計内容もガラッと変わります。同じ敷地でもプログラムによってはコンセプトも一緒にはなりません。

 

その様な複雑な思考の過程について、設計中の検討資料を使って紹介することで、 渡部環境設計事務所は設計の最中に何を考え、どのようなことを大切に思っているのか?を少しでも明らかにできればと思います。

これから弊社に設計を依頼されようと検討されている方にとって、良い判断材料になることができれば嬉しいです。

 

概要と要望

今回の依頼は、知り合いの工務店さんから頂きました。津軽半島の人口2700人程の蓬田村で、工務店を営んでいます。つまり設計は私たちですが、施工はお施主さん自ら行います。

今までは自宅のリビングにて打ち合わせを行っていたようですが、子供も大きくなり、家族にも迷惑をかけるとの事から、敷地内に事務所と、自転車や雪かき道具、スペアタイヤなどを保管する小さな倉庫、車が2台停められる屋根を希望されています。

内部空間は10坪ほど、予算500万円程度の小さな増築です。

 

敷地の状況

敷地は、田んぼに囲まれたのどかな場所です。前面道路はバイパスに並行する交通量の少ない道です。

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前面道路からはコンクリートのスラブが伸びていて、その奥に住宅が建っています。計画建物は敷地内の道路に面した手前側に建てることになりました。

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設計趣旨

今回の設計のコンセプトは、クライアントの人柄から導かれました。

人柄がデザインのテーマになりうるか?一見意味がよく分からないかもしれません。

 

クライアントは仕事やまちの消防団に所属したり、子供の野球教室への献身的な参加を通して、地域の皆に信頼される存在です。

毎年夏になると、これまでの建主や工事関係者を招いたBBQを開催したり、空き倉庫を移築し子供たちが冬でも利用できる練習場を作る計画があるなど、自分の得た利益を身近な方々に還元するような公共性の高い活動をされています。

私たちはこのような振る舞いを地域の大切な資源と捉え、クライアントを慕う人々が集まり、地域交流の拠点となる場所を計画したいと考えました。

 

スタディ

事務所の設計を求められているのに、地域交流の拠点になることもできる建物。そんな思いを実現すべく事務所・倉庫・車庫の配置を検討しました。

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検討を重ねる中で、車庫として設ける屋根の下に注目し始めました。夏には日差しを遮る日陰でBBQをすることができたり、雨や雪の日には子供が素振りの練習をできたり、近所の人が集まって談笑したり、人の活動の中心になりうるのではないか?という仮説が見えてきました。

 

そこで、冬期に北西方面から吹き付ける厳しい風を遮るよう建物をL型に配置し、囲まれた空間に人が集まり憩えるように計画しました。

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この半屋外のスペースが地域交流の拠点となり、人と人の関係を繋ぐコモンとなりうるのです。このように行政ではなく個人が提供する、手の届く小さな範囲の人々に開かれた共空間が、地域に根差した新たなコミュニティを育む場になる可能性に期待しています。

 

詳細設計

メインのテーマや配置が決まると、使い方に合わせた素材の決定や開口部の設定などになります。

半屋外の車庫が活動の中心になりうる可能性を信じ、外壁の素材は人が近寄りたくなるような優しい素材が良いなと考え、木材を選定しました。

倉庫には車庫に面してベンチも設け、腰を下ろして寛ぐこともできます。

 

事務所は、メインの入り口となる南側に対して大きな開口部を設けます。そして活動の中心となる車庫に対しても、掃き出しの大きな開口部と3つ設けました。

こうなると、車庫と事務所は自由に出入りすることもでき、扉を開け放てば一体の使い方をすることも可能です。

様々な使い方を想像しながら、事務所という箱が閉じることなく、車庫での活動を補完するようなイメージです。

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そうして、木に囲まれた居心地の良い車庫を設計しました。

居心地の良い車庫ってなんだか、変な言葉ですね。

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これが、蓬田村の事務所のプロジェクトで、クライアントからの要望を満たしつつ、その建築が持つ可能性を最大限に引き出せるよう、設計中に考えたことです。